円形脱毛症とは

円形脱毛症

円形脱毛症とは、頭髪や眉毛、まつ毛、体毛などの毛が、突然円形または楕円形に抜け落ちる自己免疫性の脱毛症です必ずしも円形に限らず、症状が進行すると複数箇所に拡がってしまう場合や、頭部全体、さらには全身の毛が抜ける場合もあります。
年齢や性別に関係なく誰にでも起こり得ますが、10〜30代といった比較的若い世代に多い傾向があります。
思春期に発症すると、不登校や引きこもりの原因となることもありますので、注意する必要があります。

なぜ円形脱毛症が発症するかは、まだよくわかっていない部分もありますが、自己免疫反応によって自分の毛根が攻撃されることで毛の成長が止まり、脱毛が生じるのではないかと考えられています。
多くの場合は軽症で自然に改善しますが、なかには重症化して長期にわたり症状が続くものもあり、症状に応じて適切に診断、治療していくことが必要となります。

円形脱毛症の症状

円形脱毛症の最も典型的な症状は、突然生じる境界のはっきりした脱毛斑です。
これは単発性通常型と呼ばれ、頭皮に1か所から数か所程度の円形の脱毛が現れて、周囲の毛が正常であるために目立ちやすいのが特徴です。
脱毛部の皮膚自体は赤みやかゆみなどの炎症を伴わないことが多く、本人も気づかないうちに症状が進行しているケースもあります。
重症化したものでは、「全頭型」や「汎発型」と呼ばれる状態があります。

円形脱毛症とされるものには、以下のようなタイプがあります。

単発性通常型:頭部に1つの脱毛斑ができるもので、数週間~数ヶ月で自然に治ることも多いタイプです
多発性通常型;頭部に複数の脱毛斑ができるタイプです
全頭型:頭部全体に脱毛が及ぶものです
全身型(汎発型):頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜け落ちるタイプです
蛇行型:側頭部から後頭部の生え際が帯状に脱毛するもので、難治性であることが多いタイプです

円形脱毛症は再発することも多く、一度よくなっても、ストレスや体調の変化で再び脱毛する場合があります。
また円形脱毛症では、原因によって、爪甲点状陥凹と呼ばれる爪の小さなへこみや爪甲横溝と呼ばれる溝などの変形を合併することがあります。

円形脱毛症の原因

円形脱毛症の原因は、まだ完全にはわかっていませんが、免疫機能の異常による「自己免疫反応」によるものではないかと考えられています。
通常、私たちの免疫は体内に侵入した異物を排除する働きを持っています。
しかしこの免疫が、円形脱毛症では誤作動を起こし、自分の毛包(毛根の周囲組織)を異物とみなして攻撃することによって、毛の成長が止まり、脱毛が生じるとされています。
発症の背景には遺伝的素因、精神的ストレス、過労、ウイルス感染、自己免疫疾患(甲状腺疾患、膠原病など)などとの関連が指摘されています。
また、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、花粉症などのアレルギー体質の方は、円形脱毛症を併発しやすい傾向があります。

円形脱毛症は、主にストレスが原因ととらえられがちですが、ストレスはあくまで引き金の一つであり、すべての患者さまに当てはまるわけではありません。
精神的ストレスがなくても発症する例は多く、過度に意識するとかえって悪循環を招くこともあるため、専門医にご相談されることをお勧めします。

円形脱毛症の治療

円形脱毛症の薬物治療は、脱毛範囲や進行度、年齢、再発歴などを考慮し、外用薬・内服薬・外科的処置を組み合わせて行います。

まずよく使われるのがステロイド外用薬で、とても強い(very
strong)のアンテベートローション(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)、最も強い(strongest)のデルモベートスカルプローション(クロベタゾールプロピオン酸エステル)などが炎症を抑える目的で使用されます。
症状が強い場合には、ステロイドの局所注射薬、主にケナコルト-A(トリアムシノロンアセトニド)を患部に直接注射することもあります。
また、抗ヒスタミン薬(例:アレグラ〈フェキソフェナジン〉)を併用することもあります。

その他、近年ではJAK阻害薬の内服薬も効果が期待されています。
例としては、オルミエント(バリシチニブ)、リットフーロ(リトレシチニブ)などがあり、特に重症例に対して選択肢が広がっています。
脱毛面積50%以上、12歳以上で6ヶ月以上脱毛状態が固定した慢性型円形脱毛症の人が内服できます。

脱毛範囲が広い場合には、局所免疫療法が有効です。
これは皮膚に化学物質を塗って人工的なアレルギー反応(かぶれ)を起こさせることで免疫のバランスを整え、毛根への攻撃を抑える方法です。
SADBE(スクアリック酸ジブチルエステル)やDPCP(ジフェンシプロン)といった感作剤を使用します。
これらは保険適用外ですが、広範囲や難治性の症例に対して高い効果が報告されています。

これらの感作剤では副作用として過度の接触皮膚炎が生じ、治療部位から離れた部位への皮疹拡大(自家感作性皮膚炎)が起こることがあります。
その場合はステロイド剤外用、抗アレルギー剤内服などの治療を行います。
また、まれに色素沈着や色素脱失を引き起こす場合があります。

いずれの治療も即効性があるわけではなく、毛が生えるまでには一定の時間がかかります。
多くの場合、数ヶ月単位の継続的な治療が必要となるため、焦らずに根気強く治療に取り組むことが大切です。
治療の選択は、医師と相談のうえ、症状に合わせて慎重に進めていくことが大切です。
再発しやすい疾患でもあるため、治療後も継続的な経過観察と再発予防を意識した生活管理が求められます。

新宿駅前IGA皮膚科クリニック 院長 伊賀 那津子

監修:

新宿駅前IGA皮膚科クリニック 院長 伊賀 那津子
日本皮膚科学会皮膚科専門医・医学博士
京都大学医学部卒業