脂漏性皮膚炎とは

脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)とは、皮脂の分泌が多い部位に湿疹が生じ、赤みや軽度のかゆみ、フケのようなカサカサとした皮膚のはがれが現れる慢性的な皮膚疾患です。
皮脂の多い部位に起こりやすいことから、頭皮、顔(特に鼻のまわりや眉間、額)、耳の後ろ、胸元などに症状がよくみられます

この疾患は「乳児型」と「成人型」に分けられます。
乳児型は生後すぐから数ヶ月以内の赤ちゃんにみられ、多くは一時的なもので、保湿で自然に治ることが多い一方で、成人型は思春期以降に発症し、再発を繰り返す慢性疾患となることが一般的です。
自然に治癒することは少ないため、早めに医療機関で適切な治療を受けることが重要です。

脂漏性皮膚炎の症状

脂漏性皮膚炎の症状は、年齢層により異なる特徴を持っています。
乳児型では、生後2〜4週に発症し、数ヶ月にかけて、頭皮や生え際、額、眉毛などに黄色っぽい脂っぽいかさぶたや厚くはがれたフケのようなものが見られます。
赤みを伴うこともあり、時には耳の後ろや顔、首にまで広がることがあります。
多くは強いかゆみを伴いません。

乳児型の脂漏性皮膚炎は、月齢の進行とともに皮脂分泌が落ち着くことで自然に改善する一過性のもので、多くの場合、生後8~12ヶ月で自然によくなります。
そのため、症状が長く続いたり、かゆみで掻くような行為がよくみられたりする場合は、アトピー性皮膚炎など、ほかの皮膚疾患と鑑別する必要があります。

一方、成人型脂漏性皮膚炎では、長期的に慢性化することが多く、特に中年以降で発症すると、その傾向が強くなります。
成人型の症状としては、眉間、鼻のわき、耳の穴周囲・耳の後ろ、髪の生え際など、皮脂の多い部位に好発し、赤みやカサカサが認められます。
また、頭部も好発部位で、頭皮のフケが多くみられるようになる傾向にあり、頭部の広範囲に赤み、かさぶたのようなものが生じる場合もあります。

脂漏性皮膚炎の原因

脂漏性皮膚炎には、皮脂を栄養源とする皮膚常在菌「マラセチア(真菌の一種)」が大きく関わっています。

乳児型脂漏性皮膚炎では、赤ちゃんが胎内で受け取った母親由来のホルモンの影響により、皮脂の分泌が一時的に活発になります。
また未熟な皮膚バリアにより皮脂がうまく排出されない場合があります。
そのため、マラセチアが増殖しやすくなり、皮膚に炎症が起こりやすくなると考えられています。

一方、成人型では、ストレス、睡眠不足、過労、不規則な生活習慣、偏った食事などに伴って、皮脂を分泌する脂腺の機能異常やホルモンの乱れが起こり、皮脂が増加してマラセチア菌が増殖すると考えられています。
また、ビタミンB2やB6の不足なども関わっていると言われています。

このほか、パーキンソン病やうつ病、HIV感染など、一部の神経・免疫疾患を持つ方では脂漏性皮膚炎の発症率が高くなることが知られています。

脂漏性皮膚炎の治療

脂漏性皮膚炎の治療は、皮膚を清潔に保つことと、適切な薬物治療を行うことが基本となります。

乳児型では多くの場合、スキンケアのみで自然に軽快することが多いです。
かさぶたやフケが厚くなっている場合には、まずはぬるま湯やベビーオイルなどでやさしくふやかしてから取り除きます。
その上で、石鹸をよく泡立てて洗い、石鹸成分が残らないようにシャワーでよく洗い流すことが大切です。
その後、水分をよくふき取り、ワセリンなどで保湿します。
炎症が強い部位には低濃度のステロイド外用薬を短期間用いることがあります。
また、マラセチアが関与していると判断される場合には、抗真菌薬を配合した外用薬を用いることもあります。

成人型脂漏性皮膚炎では、頭皮に症状がある場合には、抗真菌成分を含むシャンプーやローションタイプの薬を使用し、皮脂のコントロールとマラセチアの増殖抑制を図ります。
顔や体の症状に対しては、抗真菌薬の外用が有効となります。
かゆみや炎症に対しては、ステロイド外用(ローションタイプ)などを用います。

脂漏性皮膚炎で使用する薬剤は、症状の程度や部位に応じて外用薬を中心に行い、重症例では内服薬を併用することもあります。

まず、炎症やかゆみを抑えるためにステロイド外用薬(ロコイド〈ヒドロコルチゾン酪酸エステル〉やリドメックス〈プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル〉、お子さまではキンダベート〈クロベタゾン酪酸エステル〉など)が広く使用されます。
顔など皮膚が薄い部位には、作用の穏やかな薬剤を短期間使用するのが原則です。

皮膚常在菌の一種であるマラセチアの増殖が関与するため、抗真菌薬外用剤(ニゾラール〈ケトコナゾール〉クリームなど)も使用されます。
特に再発を繰り返す成人型では、抗真菌薬の定期的な使用が予防にも有効とされています。

重症例や広範囲にわたる場合は、抗真菌薬の内服(イトリゾール〈イトラコナゾール〉など)が検討されますが、肝機能障害などの副作用に注意が必要です。
また、かゆみが強い場合などには、抗ヒスタミン薬の内服(アレグラ〈フェキソフェナジン〉、ザイザル〈レボセチリジン〉など)も併用されることがあります。

このほか脂漏性皮膚炎の原因としては、ビタミンの代謝異常、中でも水溶性のビタミンB群が皮膚との関係が深いとされ、補助療法として、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビオチン(ビタミンB7とも呼ばれる)などのビタミン製剤の内服
が使用されることもあります。

脂漏性皮膚炎のスキンケア・ホームケア

成人型は特に慢性化しやすいため、症状が落ち着いても再発を防ぐための継続的なスキンケアや生活習慣の見直しが欠かせません。
洗顔や洗髪の際に肌に合った洗浄料を使いすぎずに優しく洗うこと、肌をこすらず保湿をしっかり行うこと。
また、皮脂を抑える効果のある成分が配合されたスキンケア(ナイアシンアミドやアゼライン酸)を意識的に取り入れ、ノンコメドジェニックテスト済みのニキビ用の保湿剤を取り入れることも有効です。

そして、ストレスを溜めない生活を心がけることなどが、再発防止には大切です。

新宿駅前IGA皮膚科クリニック 院長 伊賀 那津子

監修:

新宿駅前IGA皮膚科クリニック 院長 伊賀 那津子
日本皮膚科学会皮膚科専門医・医学博士
京都大学医学部卒業