酒さとは

酒さ(しゅさ)は、主に顔面に慢性的な赤みやほてり、小さなブツブツ(丘疹・膿疱)などが生じる慢性炎症性皮膚疾患です。
頬、鼻、額、あごといった部位に出やすく、毛細血管が拡張して赤みが目立つようになります。
お酒をよく飲む人にみられると考えられていたため「酒さ」と呼ばれますが、実際には飲酒と関係なく発症することも多く、体質や皮膚のバリア機能の低下、外的刺激などが関係しています。

30代以降の成人、特に40〜60代の女性に多く見られる傾向がありますが、近年では20代の女性でもみられ、また男性でも発症することがあります。
特に敏感肌で、赤くなりやすい、熱を持ちやすいといった特徴を持つ方が発症しやすいとされています。
また、酒さは他の疾患と見分けがつきにくいことも多く、長期間、別の皮膚疾患と思い、過ごしている方も少なくありません。

進行性の皮膚病であるため、早期に適切な診断と治療を受けることで症状をコントロールし、悪化を防ぐことが重要です。
見た目の変化による精神的な負担も大きいため、当院までお早めにご相談ください。

酒さの症状

酒さの症状は、段階的に進行することが多く、初期には顔面のほてりや一時的な赤ら顔として始まります。
時間が経つにつれて赤みが持続するようになり、皮膚表面に毛細血管の拡張がみられるようになります(紅斑型)。
この段階では、日差しや温度差、辛い食べ物、アルコールなどが引き金となって赤みや火照りが悪化することがあります。

中等度から重度になると、赤みの中に小さなブツブツ(丘疹)や膿をもったできもの(膿疱)が現れるようになります。
これは一見ニキビに似ているため、「大人ニキビ」と思い込んで市販薬を使ってしまう方もいますが、ニキビとは発症の仕組みも治療法も異なり、誤った対応によって悪化することもあるため注意が必要です。

さらに進行すると、皮膚の厚みが増したり、特に鼻がごつごつと変形してくる「鼻瘤(びりゅう)」と呼ばれる状態に至ったりすることもあります。
この状態は、主に中高年の男性に多くみられますが、日本人ではあまり多くないとされています。
また、酒さは眼にも影響を及ぼすことがあり、「眼型酒さ」と呼ばれる眼の充血や異物感、かゆみ、乾燥、涙目、まぶしさなどの症状が出ることもあります。

酒さの原因

酒さの明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、外部環境、皮膚のバリア機能の低下や免疫異常、血管の過剰反応、皮膚常在菌の関与、遺伝的素因、など、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。

まず、酒さにおいて最も特徴的なのが「毛細血管の拡張」です。
これを悪化させる因子としては、寒暖がはっきりした環境(特に寒冷曝露)、熱い飲み物、アルコールやカフェイン、香辛料の効いた食べ物の摂取、紫外線への曝露、喫煙、さらに興奮することや過度の運動などがあり、顔の赤みやほてりを引き起こします。

このほか、ホルモンバランスや自律神経の乱れ、ストレスなども症状の誘因となると考えられ、さらに毛包に常在するダニの一種「デモデックス(毛包虫)」も酒さの悪化の原因に挙げられています。

また酒さの方は、炎症性腸疾患やリウマチなどの自己免疫疾患、パーキンソン病などを罹患していることが多いという報告もあり、腹部症状、関節痛、神経症状などを伴う場合は、外的要因と全身性の疾患など内的要因を見ていく必要があると言われています。

酒さの治療

酒さの治療にあたっては、まず、似た症状を呈する別の疾患と区別することが重要です。他疾患としては、ニキビ、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、花粉症皮膚炎、膠原病などがあります。
検査ではダーモスコピーによる皮膚の観察などで、見極めていきます。
ただし、これらの疾患は酒さと合併して発症していることも少なくなく、酒さと同時並行で治療していくことが重要になります。

酒さ(しゅさ)の薬物治療は、症状の型(紅斑・毛細血管拡張、丘疹・膿疱など)や重症度、患者さまの肌質・体質に応じて慎重に選択されます。

使用する薬剤としては、「ロゼックスゲル(メトロニダゾール)」が赤ら顔の治療に有効です。
これは2022年5月に保険適用での使用が可能となりました。
ニキビダニや寄生虫、嫌気性菌に対する抗菌作用があり、抗炎症作用や免疫抑制作用などもあるため、酒さの改善が期待できます。
炎症を和らげ、毛包虫(デモデックス)の関与が疑われる場合にも有効です。
塗布後数時間で赤みを軽減する即効性がありますが、反動性の潮紅が起こることがあるため、少量から慎重に使う必要があります。

また、イオウ・カンフルローションも保険適用となっています。
殺菌・角質軟化・収れん作用を持ち、比較的軽症の症例や脂漏性変化を伴う酒さに対して用いられますが、刺激性があるため使用部位や頻度に注意が必要です。

内服薬としては、ミノマイシン(ミノサイクリン)やビブラマイシン(ドキシサイクリン)などのテトラサイクリン系抗菌薬が中等症以上で用いられ、主に抗炎症作用を目的に数週間~数ヶ月投与されます。
テトラサイクリン系抗菌薬が使えない方はルリッド(マクロライド系抗生物質)を使うことがあります。

また、丘疹・膿疱型の酒さにはアゼライン酸外用、イベルメクチンクリーム外用という選択肢もあります。
アゼライン酸は日本では化粧品にも配合されており、15〜20%程度のアゼライン酸は、酒さの丘疹や膿疱に対して有効とされます。
イベルメクチンは寄生虫に対する作用や抗炎症作用がある成分で、海外では酒さの治療によく使用されます。
1%のイベルメクチンと0.75%のメトロニダゾールでは、イベルメクチンの方が3週間目から早い改善効果がみられます。
これらは日本では保険適用外です。

また重症例では、イソトレチノイン内服(保険適用外)が検討されることもあります。
これは特に丘疹膿疱型酒さに有効とされていますが、催奇形性などの重篤な副作用のため厳密な管理下での使用が必要で、保険診療外となります。

ステロイド外用は酒さを悪化させるため、原則禁忌となります。

酒さの改善には、こうした保険治療での薬物治療で効果が乏しい場合、特に紅斑毛細血管拡張症(第1度酒さ)はこれらの治療に対する反応が乏しく、保険適応外となりますが光治療、レーザー治療(Vビームレーザー)が選択肢として上げられます。

当院で行っている酒さの治療

酒さのスキンケア・ホームケア

悪化因子の除去やスキンケアも大切です。
悪化因子の除去では、暑かったり寒かったりする生活環境、アルコールや香辛料など刺激の強い食べ物、紫外線、医薬品や化粧品など、生活の中で原因となっているものに関し、それらをなるべく遠ざけるようにします。
またスキンケアでは、保湿や洗顔方法、紫外線対策が重要で、低刺激など化粧品選びも大切です。
具体的には保湿はアゼライン酸が入ったスキンケアを使用しましょう。
酒さはバリア機能が低下し、炎症が病態に関与しているため、セラミド(バリア機能)やグリチルリチン酸2Kなどの(抗炎症成分)を含む低刺激なスキンケアを取り入れましょう。
また紫外線により、酒さの悪化のきっかけとなることがあるためUV対策は欠かせません。
洗顔は肌にできる限り負担をかけないように泡洗顔を選びましょう。

当院では酒さに対するスキンケア指導も行っています。
ぜひご相談ください。

酒さは、長期的な管理が求められる疾患です。
当院では、肌の状態を丁寧に観察しながら、薬による治療のほか、生活環境・習慣やスキンケアに関しても、患者さま一人ひとりに合わせたアドバイスを行っていきます。
酒さは、日常生活や精神的な負担にもつながる疾患です。
当院では、酒さに悩む患者さまに寄り添った丁寧な診療を行っています。
気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。

新宿駅前IGA皮膚科クリニック 院長 伊賀 那津子

監修:

新宿駅前IGA皮膚科クリニック 院長 伊賀 那津子
日本皮膚科学会皮膚科専門医・医学博士
京都大学医学部卒業